Columnセミナーレポート
2021.2.4
2021年2月4日にオンラインで開催された「DX遂行の新事業創出メソッド」。今回はそのなかでもさまざまな企業支援や新規事業開発を行ってきた株式会社スペックホルダー代表取締役社長である大野泰敬氏の登壇内容をレポートする。
数多くの新規事業に携わってきた大野氏が新規事業開発のなかでよく耳にするのは、「うちの会社って新規事業に向いてないよな」とか「役員は何もわかってないよね」という言葉だ。しかし、実際は企画の詰めの甘さや事業計画の出来など、そもそも資料自体に問題があるため、会社側が判断できる材料が揃っていないことが非常に多い。そこに新規事業がうまくいかない理由があるという。
「現場の人たちは早く役員に判断してほしいが、経験不足のためにどのように資料をつくったら良いのかが分からない。役員は判断できる材料がないため前に進められない。また、そもそも役員も経験不足で市場についてよくわからないため判断できないこともある。この両者に問題があって前に進まないというケースが比較的多い。」(大野氏)
新規事業に携わる方々はご理解いただけると思うが、そもそも新規事業は苦しい。いくつかのフェーズでさまざまな難関が待ち構えている。大野氏は新規事業においては大きく3つのフェーズがあるという。
「新規事業の企画および事業計画書などを作成し、上司あるいは経営層に対して、その事業の承認を取る新規事業の一番最初の難関。」
新規事業をどのように通していくのか。経営会議などの重要な意思決定を下す場を突破していく最初の難関だ。
「新規事業を創るフェーズ。組織づくり、開発手法などさまざまな問題が発生し、スケジュール、事業などに影響がでる。マネージャーにとって試練の時。」
企画までは少人数で行っていたことが、システム開発となると関係者が一気に増える。社内は元より社外の人たちとも連動する必要が出てくる。ここもかなりの試練となる。
「設定した目標を達成できるように、運用しつづけないといけない。日々発生する課題に対して傾向を分析し、対策をしつづける地獄のようなフェーズ。」
実は最も苦しいのが運用フェーズだ。新規事業を生み出した後に、その設定した目標を達成しつづけなければならないからだ。日々、「KPIを達成しているのか」「数字は上がっているのか」と毎日詰められる地獄のようなフェーズだ。
最初に立ちはだかる難関である承認フェーズをどのように突破していくのか。
新規事業はうまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。100%成功することはほとんどない。どんなに優れた事業でも失敗するリスクがある。優秀な経営者として認知されているソフトバンクグループの孫正義氏も、実は裏側ではたくさんの失敗をしている。新規事業でも世の中に出ないものが大半で、3ヶ月や半年で潰されてしまうプロジェクトもある。
そのような失敗が多い新規事業であるが、大野氏は100%うまくいっていることがあることに気づいたという。
「経営層を説得してお金を得ること。プロジェクトの承認をもらうことは、どの会社、どのプロジェクトでも必ず成功していた。」(大野氏)
つまり大野氏は最初の難関である承認フェーズを常に突破できていたということだ。
では、大野氏はどのように自分がやりたいことを常に実現してきたのか。改めてそのプロセスを思い返してみると重要なことが5つあったという。
① 意識改革:自分自身の意識を変える。考え方を変える。
② 情報収集:情報収集を抜かりなくやる。
③ テクニック:人に伝わらないと何も前に進まない。ロジック立てて説明する。
④ クリエイティブ:誰が見ても直感的にわかるようにデザインする。
⑤ 精神力:新規事業は社内に味方が少ないケースが多いため精神力がいる。
今回のセミナーでは、そのなかでも情報収集にフォーカスして話が展開された。
「なぜ情報収集が重要なのかというと、インプットの量とアウトプットの質は関係性があるから。他社が何をやっているのか、ライバル企業は戦略として何をやろうとしていて、結果どうなったのか。技術も含めてさまざまな複合的な情報を頭のなかに入れる必要がある。」(大野氏)
新規事業は日々無数に生まれている。日の目を見ないものも多い。そのなかで他社と同じものをつくっても意味がなく、他社に勝てない企画を考えてもこれも意味がない。つまり、市場や他社の動向、消費者が何を求めているのか、当たり前のことだがこれが頭の中に入っていないとよい企画は生まれない。
そして、仮によい企画であったとしても情報のインプットがない状態で上司や役員を突破することは当然難しい。上司や役員には友人や優秀なコンサルタント、経営企画の人間が周囲にいるため情報が蓄積されているからだ。つまり、新規事業で上司や役員を説得するためには、それを上回る量の情報や知識を増やしていく必要がある。そのためには「インプット量を効率的に収集して脳に蓄積することが必要」と大野氏はいう。
しかし、大野氏は企画の承認を得るためだけではなく、情報が必要な一番の理由は新規事業の羅針盤になるからだという。
「自分自身が企画を考えるにあたってデータがないと道に迷ってしまう。情報は羅針盤になる。情報を集めれば目指すべき方向性が見えてくる。」(大野氏)
新規事業を考える際に、ユーザーが何を考えているのかを知ることは非常に重要だ。そのなかでもアンケートは代表的な手段だ。しかし大野氏はアンケートだけでは不足しているという。
「アンケートは必ずやる。しかしアンケートで得た回答が本音とは限らない。アンケートでは見栄を張ることや、その時の雰囲気にのまれる可能性もある。起案者側でアンケート結果をコントロールすることもできる。」(大野氏)
新規事業の企画者はさまざまな情報を収集して承認フェーズを突破するために説得力を高めていかなければならない。では、大野氏はアンケートだけではなくどのような情報を活用しているのだろうか。
「国内だけでなく海外も含め、いまだけではなく過去のデータも含めてさまざまな情報収集ツールを活用している。そこで得られた情報を分析して、それを資料化する。そうすることで成功する確率、役員を説得できる確率は飛躍的に上がる。理論武装ができているから、逆に役員に突っ込まれたくなる。」(大野氏)
大野氏は普段活用しているツールについてひとつひとつ丁寧に紹介した。無料のものから有料のものまで、日本のものだけでなく海外のツールもある。新規事業で承認フェーズを突破するための資料作成の情報収集ツールとして、是非みなさまにもご活用いただきたい。
以下に大野氏のスライドからツールの名称と概要を記載する。
https://www.google.co.jp/alerts
・最強の情報収集ツール
一度キーワードを登録するだけで、自動で自分が欲しい情報を収集してくれるサービス。もはや検索することが不要で、絶対に抜け漏れがない。
・時短情報収集ツール
さまざまなホームページやWebメディアの更新情報をまとめてチェックすることができる。独自のAIが導入されており、自分が設定しておいたキーワードに優先順位を付け、表示してくれる。
・ユーザーの興味を把握
Webで検索をかけている人たちが、どんなキーワードで検索をかけているのかを調べるツール。つまり、人がどんなものに興味があるのかがわかる。
https://ads.google.com/aw/keywordplanner/home
※別途広告アカウントが必要です。
検索ボリュームの把握
特定のキーワードや商品などに興味があり、実際に検索する人がどれくらいいるのかを推測するためのツール。集客をするための企画などに用いることが多い。
・リーチ数を把握できる
ターゲットがどういう人なのか、そのターゲットに合わせて、どういうマーケティング戦略をとっていくのか、ということを検討する際に使う。
・競合が何をしたのか把握
競合の順位が上がったタイミングで、何をしていたのかを把握することができる。Googleの評価コンテンツが何かも想定することが可能に。
https://seikatsusoken.jp/teiten/
・28年分の可視化された生活計測データを公開
日頃の感情、生活行動や消費態度、社会観など多角的な質問項目から生活者の意識と欲求の推移を分析した結果を見ることができる。
つづけて大野氏は情報発信することの大切さを説いた。情報収集はツールを活用すれば一定できてくる。しかしそれだけでは自分のものにはならない。大野氏はエビングハウスの忘却曲線を引き合いに出しながら「人間はスパッと忘れていく生き物」だという。
「情報を収集するだけではなく、それを脳に定着させる作業をしなければならない。情報を自分のなかで整理して発信することが大事。発信をしていると当然何かをいわれてしまうこともある。しかし、何をいわれようが別に関係ない。自分のためにやっていく。何度も何度も繰り返す。脳にその情報を蓄積していくためにやっている。」(大野氏)
新規事業の最初の難関である承認フェーズの突破方法として情報収集の大切さについて語った大野氏。いくつもの自身の新規事業の経験から紡ぎ出れた手法はみなさまの参考になったのではないだろうか。
世の中はDXブームに沸いている。DXと称したさまざまな新規事業が生まれては消えていっている。そのDX遂行において何が欠けているのか、何が欠けていたのか。改めて新規事業の難しさと苦しさを思い知らされたと共に、新規事業の企画者としての方向性を示していただいたのではないだろうか。
最後に大野氏はこのように締めくくった。
「新規事業をつくるときに大事なことは、情報収集をして、考え方を変えて、それらを記憶として、脳のなかにとどめていく。それが新規事業の企画者として一番重要なことだと思っている。」(大野氏)
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