Columnセミナーレポート

2021.2.4

新規事業を企画に落とし込むためのデザイン思考の活用法

DX遂行の新規事業創出メソッド 〜新規事業の企画から市場投入までの事業デザイン〜 登壇者:株式会社アツラエ 中居郁

2021年2月4日にオンラインで開催された「DX遂行の新事業創出メソッド」。レポートの第2回の今回はデザイン思考メソッドで多くの新規事業企画をサポートしている株式会社アツラエの中居郁氏の登壇内容をレポートする。

なぜ “ユーザーを知る”ことが必要なのか?

昨今デザイン思考が盛り上がりをみせている。DXブームともあいまって新規事業とデザイン思考がセットで語られている様子もよくみるようになった。とはいえデザイン思考はわかっているつもりが意外としっかりと理解できていないのではないだろうか。

そもそもデザイン思考とは、Wikipediaによると「デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である」と定義されているが、中居氏はシンプルに「誰もがデザイナーのように考えて問題解決に取り組んでいく」やり方であるという。

「デザイン思考の基本は人間中心であること。人間中心とは、ユーザーにとって何が1番最適なのか、その人が1番喜ぶことは何なのかをずっと考えて追求していくこと。」(中居氏)

UXデザインと通じる考え方ではあるが、UXデザインが利用者の経験価値に主眼を置いていることに対して、デザイン思考は問題解決のアイディア創出に主眼が置かれている。そういう意味でも新規事業のアイディア創出にフィットしている。

中居氏はいまなぜデザイン思考が必要とされているかの理由を「人間にフォーカスするデザイン思考は、ビジネスに取り入れてイノベーションを起こすための手法と位置づけられているから」と説明する。

/

企業は存続のためにイノベーションを求めている。本来DXは業務効率化をするものではないしデジタル化をするものでもない。デジタルを活用して「トランスフォーメーション」を起こすものだ。そういう意味でデジタルを活用したイノベーションであるともいえる。

大量生産、大量消費の時代では「ビジネスとして成り立つのか」「この技術が優れているのか」といったことだけを考えて製品開発をしていれば消費者が買ってくれていた。例えば、新しい電化製品では他社に比べて「この機能が優れている」「この技術が優れている」「品質が高い」などに注力していれば売れることができた。

しかし、さまざまなテクノロジーが生まれてモノが溢れた現代の多様な消費者は、豊富な選択肢から自身の趣味嗜好に即して好んだものだけを選択することができる。そのようななかで消費者に選択を促すサービスをつくるには、「消費者が本当は何をほっしているのか」を見極めたうえでサービスをつくる必要がある。つまり、ビジネスや技術だけを見ているのではなく「人間」を見ることが必要だ。

では、デザイン思考とは実際にどのように実践していけばよいのか。

/

デザイン思考は数十年前からある考え方だ。デザイン思考とは5つのプロセスが基本形であり、この5つのプロセスを繰り返し行っていくことだという。中居氏の所属するアツラエ社では新規事業のデザインのために、デザイン思考のプロセスを活用したワークショップを企業に提供している。中居氏はデザイン思考の実践の理解として「サービスデザイン・ワークショップ」と「デザイン・スプリント」の2つのワークショップについて説明した。

サービスデザイン・ワークショップ

サービスデザイン・ワークショップは2日間のワークショップと1週間の企画検討で進める。ここではデザイン思考の最初の3つのプロセス(共感・問題定義・アイディア創造)にフォーカスしており、「ひたすらユーザーについて考える」フェーズだという。

/

共感フェーズ
実際に利用するユーザーに共感して、ユーザー本人でさえ気づいてないような感情やニーズ、課題を深掘りしていくフェーズだ。特定のペルソナを選んで、そのペルソナがどんな人なのか、この人は表面的には「○○が好き」と言っているが本当はどうなのか、ということまでひたすら追求していく。

問題提議フェーズ
その人がもっている課題を具体化していくフェーズだ。ユーザーが抱えている課題をとにかく数多く出していく。

アイディア創造フェーズ
「どうすればこのユーザーは喜んでくれるのか」「どうしたら本当に便利だと思ってくれるのか」など、その課題を解決するアイディアをひたすらに考えるフェーズだ。

「ユーザーのことをずっと考えていることが大事。どれだけ共感して、どれだけその人になりきって、その人が本当に気づいてないことに気づき、ユーザーに喜んでもらえるためのサービス・アイディアを出していくことができるか。ワークショップをやることでユーザーの理解が深まる。ずっとユーザーのことを考えているのでどうしてもそうなる。」(中居氏)

このようにして短時間で多くのサービス・アイディアを生み出すことができる。そのなかで選択したアイディアを企画書に落とし込み、場合によってはプロトタイピングやユーザーテストも行うという。

「ワークショップでは必ずビジネスに活かせるアイディアを出して着実に次のステップに繋げることを目標にしている。いわゆるワークショップ体験のようなものではなく、ビジネスとしての企画づくりを支援することに重きを置いている。」(中居氏)

デザイン・スプリント

ここではデザイン思考の後ろの4つのフェーズ(問題定義・アイディア創造・プロトタイプ・テスト)にフォーカスしている。こちらも4日間という短期間で高速に繰り返し実践できるように組み立てられている。これは数年前にGoogleベンチャーズがつくった手法だという。

/

問題定義とアイディア創造を2日間でワークしたうえで、たった1日で動くプロトタイピングをつくり4日目に5人のユーザーでテストを行う。ユーザーがどのような反応をするのかを見極めて、アイディアがユーザーに「受け入れられるのか」「受け入れられないのか」まで短期間で実施していく。このワークショップのメリットは、アイディアを生み出してからテストして評価するまでが1週間しかかからないことだ。

「PoCに2ヶ月もの時間をかけてつくったアイディアはどうしても悪い評価は出しづらい。しかし、わずか1週間で行うのであれば悪いアイディアは切り捨てられるし、アイディアを洗練させていくことができる。デザイン・スプリントを繰り返し実践することで、短時間・低コストでユーザーの評価を得ながらサービスを改善できるのは非常に有用。」(中居氏)

なぜ新規事業においてデザイン思考が有効であるのかご理解いただけたのではないだろうか。現在、社会環境はめまぐるしく変わっていっている。時間をかければよいアイディアが出ることもあるかもしれない。しかし変化の激しい社会環境にあるなかではスピードも必要だ。デザイン思考の手法を活用して高速で仮説検証を繰り返しながら新規事業を生み出していくことはひとつの有効な選択肢かもしれない。

最後に中居氏は改めてデザイン思考の重要性を語った。

「日本の開発は1本の道を進んでうまく行かないことがあると『これダメだね』となり、そこで頓挫してしまうケースが多くある。デザイン思考を活用すればいくつも道を見出しながら企画を洗練していくことができる。サービスに関わる人たちすべてにデザイン思考を活用してほしい。」(中居氏)

UX資料ダウンロード

SHIFTのUXサービス資料や、調査資料をダウンロードできます。
是⾮ご活⽤くださいませ。

TOPICS