Columnセミナーレポート
2020.11.12
2020年11月12日にオンラインで開催された「顧客視点で考える・実践するDXの現場」。
DXにおける顧客視点の取組に対して有識者を招き、「顧客視点をもちつづけるための行動様式」と題してディスカッションが行われた。
サントリーでDXを推進する中村氏と、外部から顧客視点でのクリエイティブを支援するナディア弓庭氏、SHIFT黒田。モデレーターはナディアの小川氏が務めた。
現代は消費者が多様化し顧客接点も複雑化していると言われている。また、世界的なパンデミックによりDX(デジタルトランスフォーメーション)はもはや生存戦略となっており、全ての業種・業態でDXが叫ばれていると言っても過言ではない。
一方で、DXという言葉だけが先行しており、顧客が置き去りになっている印象を受けることも少なくない。顧客視点を持ち続けることは事業を行ううえで、またDXを推進するうえでも重要である。どのような事業でも顧客がいなければ事業たり得ないからである。
DX推進の現場において、どのように顧客視点を持つのか、そして持ち続けるのかのディスカッションをレポートする。
多くのシステム開発において品質保証を手掛けるSHIFT。DXブームにより開発案件が増加しているが、そのようななかでサービス提供者とサービス利用者の間で大きな断絶を感じている。
「サービス提供者は、『私は自社のサービスをよく知っているし、顧客のこともよくわかっている』と思い開発を進める。しかし、『私は』というのはサービス提供者の都合であって、お客様の都合では一切ない。『私は』本当にいろいろなことをしているし、サービスのことをよく知っているかもしれない。しかし、顧客よりも圧倒的に情報をもっているし、本来顧客の立場には遠い場所にいるのではないか。」(黒田)
本来DXも事業も顧客があってこそ成立する。すなわち、顧客を起点としてサービスを企画し、システムを構築する必要がある。つまりUX(ユーザーエクスペリエンス)が必要だ。
モデレーターの小川氏は「本当にお客様に価値が届くようなこと、そして実感してもらうようなことを大切にしなければならない」と言い、UI(ユーザーインターフェース)とUXの違いとして1枚のスライドを見せた。
購入者の両親は赤ちゃんのために可愛いグッズをベッドにつけて両親が喜んでいる。しかし、実際の赤ちゃんの視点で見てみると4つのお尻が赤ちゃんの目の前でグルグル回っているだけに見える。提供者と利用者の視点の違いがわかりやすく表現されている。このようなことはさまざまな場面で展開されているのではないだろうか。
企業にクリエイティブの観点から、DXやUXの支援をしているナディアは外部パートナーとして参画する際にも顧客視点であることを意識しているという。
「最初は顧客視点で見ようとしているが、クライアントと話せば話すほどクライアント視点に寄りがちになる。そうならないように1歩引いて顧客視点を持つ。『お尻しか見えてないのでは?』と自問自答する。」(弓庭氏)
動物のお尻しか見えていない状況ではなく、一歩引いて顧客視点を持ち続けるためには、利用者を知り、利用者がどのようなシチュエーションでサービスを使うのかを理解する必要がある。
しかし、頭では分かっているものの、顧客視点を維持し続けることは難しい。提供者側の習熟やビジネスの変化、利用者側の生活の変化、環境の変化など様々な要因がありそれに対応し続けなければならないからだ。提供者も変わっていき、利用者も変わっていく。その変化に対応しなければならないと黒田は警鐘を鳴らす。
「定期的に、頻度高く顧客に聞くことをやっていかなければ、顧客視点を見失うことは避けられない。『私は長くこの事業をやっているからわかっている』と言っていては永遠に顧客視点にはなり得ない。」(黒田)
重要な大きな変化のひとつにデジタルが挙げられる。DXが叫ばれてはいるが、利用者にとってデジタル化はすでに当たり前の事項であり、スマートフォンやクラウドなどの技術進化により利用者の生活はすでに変革されている。利用者にとっては当たり前になったデジタルの変革に対して、提供者が追いついていないとも言える。
弓庭氏はデジタルが浸透している状況において顧客視点になるためには、デジタル起点の考え方が必要になっていると言う。
「ユーザー行動は多様化していて、ユーザーは必ずしも同じ行動を取らない。デジタル中心に行動している方も多い。つまりデジタル起点でのユーザー分析が重要だと感じる。例えば、10年くらい前は『オンラインサーベイだと回答が偏る』と言われていた。しかし今はオンラインサーベイでないと、わからないこともあるのではないか。」(弓庭氏)
デジタルが大きく顧客行動を変化させ、コロナ禍によりデジタル化がますます進行し、従来の考え方だけではもはや立ち行かない。利用者がデジタル起点となるならば、企業もデジタルに寄り添ってゆき顧客理解を深めなければならない。
そのような環境の変化のなかで、どのように顧客視点を持ち続けることができるのか。小川氏は「総論として顧客理解が必要なのはわかるが、どうやって業務に落としていくのか、どのように標準化していくのかが難しい。」として、サントリーがどのように業務プロセスに顧客理解を定着させるに至ったかについて言及した。
サントリーでは、デジタルマーケティング本部のなかで標準的な業務プロセスを定義している。そもそも何のためにやるのか、誰のためにやるのかを明確にして開発やマーケティング活動を行うためのものだ。
図表を見てわかる通り、業務プロセスのなかに「ユーザー理解」が定義されている。業務の中核を成しているのがわかる。なぜ「ユーザー理解」が中核となったのか。
「企業のなかで働いていると、なかなかお客様と接点がもてない。お客様の声が大事とみんなは言うが、ではいつ聞いているのかというと、いつ聞くべきかもわからなかったりする。お客様の声がないがゆえに、寄って立つものがなく議論がかみ合わないということもあった。」(中村氏)
サントリーでは以前からユーザー理解のために当然調査を行っている。しかし、通常調査をするとなると、調査設計をして数百万円のお金をかけて 1ヵ月後にレポートが出るというようなことが多い。これはこれで必要なことだが、コストや時間がかかる従来の調査では業務での使い方が限定されてしまうため新しいやり方が必要であったと中村氏は言う。そのため、安価に顧客の声を聞ける簡易なオンラインサーベイの仕組みを導入した。
「従来型の調査では、調査の失敗を回避したい気持ちも出るし、スピード感のある通常業務にフィットしない。通常業務で利用してもらうためにも、とにかく『手軽』であることを重視した。手軽さがあればコストや時間に臆することなく常に利用できる。うまく調査できなかったら聞き直せばいい。この『手軽』さが組織に浸透していくうえで大きなポイントだった。」(中村氏)
手軽さを重視して、業務プロセスのなかで「ユーザー理解」が機能するようになったことにより、「顧客起点で議論ができ、スピード感が出て良い結果につながった。そしてその成功事例が共有され、徐々に業務プロセスが組織に浸透していった」と中村氏はいう。
現在ビジネス界ではDXが大きな声で叫ばれている。ややもするとテクノロジー先行に陥ることになり、顧客が置き去りになってしまっている状況もあるのではないか。
事業の成功とは何か、顧客にとっての価値とは何かを、改めて見つめなおす必要がある。
顧客不在の事業は存続しえない。
「今までメーカーとして提供できていたこと以上に、デジタルを使ってどうやって提供していくのかを重視しなければいけない。ユーザーが答えを持っている。何かアイディアがあればユーザーに聞く。会議室で議論していても答えは見つからない。」(中村氏)
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