Columnコラム
2021.4.20
ウェブサービスやアプリを使っているなかで、このようなこと体験したことはありませんか?
「何だろうこのメルマガ。あ、さっき登録したサービス…?もしかして会員登録した時、メルマガ登録同意の内容もあったのかなぁ…」。
「サービスを解約したいのに、解約するボタンが全然見つからない!一体どこにあるんだ!」。
この2つの例はどちらも「ダークパターン」と呼ばれる表現に該当し、ダークパターンを禁止している国や規則内容によっては罰則の対象となる場合もあります。
ダークパターンはUX面で悪影響を与えることはもちろん、世界的にも規制が強まっている傾向がある反面で、CV(コンバージョン)の増加や退会率の改善などを目的として知らず知らずのうちにダークパターンに手を染めてしまっている可能性があります。
今回はダークパターンを知ることで、自社サービスの表現を見直すきっかけや、利用者にとって健全なサイトを目指すための参考にしていただければ幸いです。
そもそもダークパターンとはどのようなものを指すのでしょうか。
ダークパターンという言葉の生みの親であるハリー・ブリヌル(Harry Brignull)は、自身で運営するDARK PATTERNSというサイトで下記のように説明しています。
Dark Patterns are tricks used in websites and apps that make you do things that you didn't mean to, like buying or signing up for something.
(ダークパターンとは何かのサービスでアカウントを作成する、購入するような場面で、利用者の意図しないことが実行されるWebサイトやアプリ上の手口です)。 ※訳:SHIFT
さらに後述する同サイトで紹介されているダークパターンの種類から鑑みるに、利用者の意図しない内容の実行だけではなく、それによって利用者が被る不利益や誤解を生むような仕掛けに関してもダークパターンに該当すると捉えることができそうです。
またダークパターンについては過去、プリンストン大学とシカゴ大学の研究者によって大規模調査が実施されており、11,000のショッピングウェブサイトから53,000の製品ページを確認したところ、約11.1%である1,254サイトでダークパターンが存在していたという調査結果が出ています。しかも、人気の高いショッピングウェブサイトではダークパターンの特徴が出やすいという傾向もあったようです。
ダークパターンは行動経済学や行動心理学のノウハウを応用していることも多く、業界や企業内での慣習になっている場合もあるため、当たり前だと思っている表現方法に対しても改めて見直すことをお勧めします。
では、なぜこのダークパターンの規制が世界的にも強化されているのでしょうか。
前提として、ここ数年のインターネットの普及やIT技術の発展、それに伴う個人情報の不正収集や漏洩などの問題・事件への対策として、個人情報の保護が強化されていく動向があります。
日本でも過去、個人情報流出事件が発生しており、個人情報保護に関する法改正が行われていることを鑑みると例外ではありません。
そのようななかで、EUでは2018年にGDPR(General Data Protection Regulation)と呼ばれる欧州経済領域における個人情報に関する規則が制定されています。
GDPRは個人情報やプライバシー保護の強化と共にEU各国の個人データ保護罰則を統一することを目的した規則で、その内容の厳しさから「世界でもっとも厳しい個人情報保護に関する規則」とも呼ばれています。
詳細な規則内容については触れませんが、GDPRでは主に生活者の個人データを自分自身でコントロールできるようにするという規則内容になっています。
この「個人データを自分自身でコントロールできる」という部分に関して、利用者の意図しないことが実行される、つまり正常な判断や意図が伴っていないダークパターンが抵触する可能性が高いのです。
同様にカリフォルニア州で2020年に施行されたカリフォルニア州消費者プライバシー法でも、個人データの主権はユーザー自身にあるとすると共に、ダークパターンを用いて得られた承諾は同意とみなされないと明記されています。
さらに2021年3月には解約手続きを困難にするようなダークパターンも規制対象にあたると改定されています。
このように各国での個人情報の保護や取り扱いに関する規制が強化されていくなかで、利用者の意図しない同意を促して情報を収集していくことにも繋がるダークパターンも規制が強化されているのです。
前述の通り規制強化が進むダークパターンですが、実際にはどのような仕掛けや実行のことを指すのでしょうか。
ダークパターンの種類については前述したハリー・ブリヌル(Harry Brignull)の運営するDARK PATTERNSに紹介されている内容と、前述したプリンストン大学とシカゴ大学の研究者によって行われた大規模調査によって検出された内容も参考にしながらご紹介します。
ダークパターン種類の一覧
※プリンストン大学とシカゴ大学の調査によって検出されたダークパターンは他にも種類がありますが、ハリー・ブリヌルのサイトで紹介されている内容と酷似しているものがあるため、今回は一部省略しています。
利用者が意図していない答えを引き出すように設計された質問のことを指します。
同じことを尋ねているように見えますが、よく確認すると別のことや正反対のことを尋ねられているような質問項目を指します。
例えば、フォーム最後にチェックボックスが2つあり、
とあった場合、1つ目が送付を希望しない内容となっているので、2つ目も同じ内容だとおもってチェックを入れてしまうと、意図せず第三者企業への情報提供と共におススメ情報が届くようになってしまいます。
何かを購入しようとカートに追加した際に、意図しない他の商品が一緒に追加されていることを言います。
例えば、友人へのプレゼントを購入しようとして1,000円の商品をカートに入れて購入に進もうと思った際、カートの中に勝手に300円分のメッセージカードも追加されているといった具合です。
その他、期間を指定して購入する商品の場合は、カートに入れた際に商品ページで紹介・表示されている期間が勝手に変更されているなどもこのパターンに該当します。
一度入ったら出られない。そのような状態をごきぶりホイホイに見立てたダークパターンです。
会員登録やサブスクリプションの利用登録など、利用を開始する時はオンライン上で簡単にはじめられる一方で、退会時は電話や郵送といった非常に面倒な手段を利用させることで、あえて解約しづらくなっているような手口のことを指しています。
利用者が意図している以上に個人情報を公開・共有させるインターフェースのことを指します。
例えば、アプリやサービスの利用規約やポリシーといった情報のなかに他のサービスやアプリへの情報提供に関する同意条件を加えており、同意と共にデフォルトで情報が共有されてしまうといった具合です。
このダークパターンタイトルは過去、プライバシー設定が困難で個人情報が過剰に共有されてしまうFacebookのインターフェースを見たティム・ジョーンズという人物がFacebook CEOであるマーク・ザッカーバーグへのオマージュとして名付けられたと説明されています。
各商品間での価格比較を困難にすることを指しています。
例えば、お餅を買おうと思ったときに10個で1,000円と書かれているものと、1kgで1,500円と書かれているものがあるなど、ベースとなる単位が異なることで料金の比較を難しくしていているような場合が該当します。
さまざまな要素があるなかで意図的に1つのことに注意を向けるよう仕向けるパターンです。
例えば、何かを購入する際にオプションを付ける画面で、オプションを追加するボタンが大きく強調されて表示されている反面、オプションを追加しない選択肢が小さく灰色の文字で表示されているなど、提供者の都合のいいように注意がいくよう設計されているものが該当します。
購入の最終ステップで予期しない金額が発生することです。
これはECで商品を購入する時に商品を選び、カートに入れたときまでは商品ページで見た金額と変わっていないにも関わらず、住所や支払情報を入力した後の最終確認画面で配送料や手数料といった金額が意図せず追加されてしまうパターンです。
Bait and Switchを日本語訳すると「おとり販売」という商法的な意味になってしまいますが、ハリー・ブリヌルがこのサイトで伝えたいことは、本来のおとり販売の意味ではなく、おとりの情報を活用して利用者が意図しない行為を実行させるという意味だと推測できそうです。
例としてMicrosoftのアップデートに関する事例があげられています。
Microsoftではアップグレードを促すポップアップを表示しており、ポップアップウィンドウ右上にある「×」ボタンはウィンドウを閉じるという意味を表していました。しかし、2016年にWindows10へのアップデートを進めるポップアップウィンドウでは「×」ボタンを閉じる意味ではなく、Windows10へアップデートしたいという意味に置き換えてしまいました。
これによりアップデートを希望しない利用者に対してもアップデートが実行されてしまったことから、過去の対応をおとりにした意図しない実行を伴うダークパターンの1つとして言及していると思われます。
何かを選択する場面で断る選択肢を選ぶ際、利用者に羞恥心や罪悪感を与えることで、あたかも断ることに罪があるように思わせるような手法です。
極端な例をあげると、定期購入をすることでお得に購入できるオプションが提案された場合、
といった具合に、断る場合の文言が利用者を貶めるような内容になっているものがこのパターンに該当します。
クリックしてもらうため、他の種類のコンテンツやナビゲーションを装った広告を指します。
広告業界ではネイティブアドといった呼び方をすることもありますが、ハリー・ブリヌルによるとダークパターンの1つとされています。
例えば、ニュース記事を扱うサービスの記事一覧のなかに、他のニュースと同様のタイトル・画像・説明といったデザインの広告があることで、ニュース記事と誤ってクリックしてしまうことが該当します。
サービスの無料期間が終了したと同時に、何も警告や告知がなくクレジットカードへの請求が開始されるパターンです。
友人検索に使用するなどの説明でメールやソーシャルメディアへのアクセス許可が求められ、許可をすると、自身のアドレスやソーシャルメディアのアカウントから勝手に情報が発信されてしまうようなパターンを指します。
製品が利用できなくなる可能性を表示させることで希少性を演出し、利用者の意図しない判断を引き起こす場合です。
例えば、すべての商品ページに「在庫数残り僅か!ご購入をお急ぎください!」など、残りの数量が少ないことによって希少性があるように見せることなどが該当します。
あたかも時間的な制限がある旨を表示している一方で、その時間に関わらずに利用できるものを指します。
例えば、ECサイトに訪れた際に、「30分以内に購入完了する場合に限り、割引実施中! 残り00:29:54」と出ているにも関わらず、30分を過ぎてもそのクーポンが利用できる場合です。本来、時間的な制限がないにも関わらず、時間制限があるように見せることによって利用者の正常な意図や判断を害してしまっています。
サイト上のアクティビティを見せることによって利用者への行動に影響を与えることをいいます。宿泊予約サイトなどで見られる「現在●人がこの商品を見ています」という表現や、ECサイト上の「1時間に●個の商品が購入されました」などの例がこの社会的証明に該当します。
さまざまなダークパターンの種類について説明しましたが、ドキッとするような項目もあったのではないでしょうか。まだ日本ではダークパターンについては明確な規制は施行されていませんが、利用者目線も鑑みると正常な意図や判断を伴わないダークパターンは活用すべきではないと考えます。
以上、世界的に規制が進んでいるダークパターンについて説明させていただきました。
改めてご自身のサイトやサービスを見直してみてください。ダークパターンは潜んでいないでしょうか?利用者が正常な判断ができるような表現となっているでしょうか?
見直すなかで発見できたダークパターンに関しては改善していくことで利用者にとって信頼のおける健全なサイトを目指していきましょう。
一方で、前述した通りダークパターンは業界や企業内で慣習となっている場合もあり、ダークパターンだと気づきにくい可能性もあります。SHIFTでは専門家によるUXエキスパートレビューを通して、慣習にとらわれない第三者視点からダークパターンを検出することができます。また独自のUX品質ガイドラインを活用し、ダークパターンの検出だけではなく、利用者視点からのUX評価も可能ですので詳細については下記の記事やサービス資料をご参考ください。
・コラム記事:SHIFT流!UXエキスパートレビューを中の人が解説!
この記事を通して、1つでも利用者にとって信頼のおける健全なサイトが増えることを願ってやみません。
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