Columnコラム

2021.2.8

本質的な課題を引き出す!デプスインタビューの特徴と事例

デプス インタビューの特徴と事例

こんにちは。SHIFTで日々UX向上に尽力している野尻です。

UX向上というと、ユーザーが快適に使用できるかどうかという「わかりやすさ」や「使いやすさ」の観点から改善する、UI的な部分にフォーカスした認識で捉えられることが多々あります。

たしかに、UI改善がUX向上の一因になるという意味では間違ってはいないのですが、実はUIよりもさらに根底に本質的な課題や問題が存在している場合もあります。この本質的な課題がある場合、UIを改善しても体験価値であるUXを大きく向上させることは困難です。

今回はこの本質的な課題にアプローチしていくデプスインタビューについてご紹介したいと思います。

本質的な課題理解は定量データだけでは不十分

「プロダクトやサービスに関して使いやすいように日々改善を試しているが、なかなか利用者やCV数が増えない」「今のサービスはうまくいっているが、どんなところにユーザーが価値を感じているのかが把握できていない」

このような課題に直面した時に、まずは数値化できる定量的なデータを元に分析することが多いと思います。例えば、どこから流入してきたのか?どこで離脱してしまったのか?CVしたユーザーがどういったページを閲覧しているのか?などのアクセスデータから仮説を立てるといった具合です。数値的な定量データから分析を行い、対策や改善を実施することは十分可能であり、1つの有効な方法です。

しかし、定量データだけではユーザー利用時の行動から表面的な課題や問題を捉えることはできても、なぜユーザーがその行動に至ったのか、その時の心理や利用環境はどのような状態だったのか、などの背景までは捉えることはできません。

このように行動に至った経緯や心理状態までを深堀していくことで、本質的な課題や示唆を獲得していくのに適しているのがデプスインタビューです。

デプスインタビューとは?

対象者と1対1の対話形式でヒアリングを行い、プロダクトやサービスを利用している最中にどのような行動をとったのか、なぜそう思ったのかなど、対象者の意見や回答を深く掘り下げていくことで心理や感情、環境などを紐解いていく定性評価手法の1つです。

対面で作業する人

デプスインタビューのメリットは以下のような点です。

<メリット>

  • ・1対1で実施することで忌憚のない率直な意見や感情を引き出せる
  • ・対象者の意見や回答から掘り下げてインタビューすることで、本人も気づかなかった潜在的ニーズや要望を明らかにすることができる
  • ・個人の価値観や利用時の状況など一般的な質問では得られないような情報を得ることができる

対象者の率直な意見や感情、潜在的なニーズ、利用時の環境といった情報を引き出していくことで、本質的な課題や問題の把握、解決のヒントや示唆を獲得することができるのがデプスインタビューのメリットです。

また、最近ではコロナ禍の影響もあり、Web会議ツールを活用したリモートでの実施も行っています。

一方で、デメリットとなるような点もあります。

<デメリット>

  • ・対象者の選定、日程の調整が必要になるので準備に時間がかかる
  • ・対象の人数が少ないと属人的な意見に偏ってしまう可能性がある
  • ・1人1人実施していくので調査や分析など時間がかかる
  • ・質問者(インタビュアー)の技量が求められる

このようなデメリットも考慮に加えた上で、うまく活用していくことが重要となります。

事例

デプスインタビューを活用することでどのような課題や示唆を得ることができるのか、実際にデプスインタビューを実施した、とある社内コミュニケーションツールを例にあげてみたいと思います。

このサービスでは導入された後、一定期間経過後の利用継続率が低いという課題を抱えており、改善に向けて原因の把握を行いたいという目的がありました。

原因の把握のため、クライアント側でも事前のアンケートによって利用者の意見を取得しており、回答としては以下の内容が多かったようです。

  • ・忙しくて時間がない
  • ・使い慣れていない

このような回答も課題の一部分ではあるのですが、利用者の声としてあがるものは本質的な課題そのものではなく、本質的な課題から派生する枝葉の内容になることもあります。
そのため、デプスインタビューによって利用時の状況や利用文脈を踏まえた調査をリモートで実施しました。

インタビューの際、過去の利用経験は記憶が曖昧な場合や、忘れてしまっていることも多いため、対象者の感情や評価を思い出しながら回答してもらえるよう、UXカーブを活用したヒアリングをおこなっています。

UXカーブとは利用前から利用中、現在に至るまでの時間軸に沿って主観的な感情や評価を視覚化することで、UXの変化だけではなく、変化が起こるきっかけとなった出来事や理由、前後関係などを把握するために有効な手法です。

本来は対面でインタビューをしながら対象者に曲線を描いてもらうことが多いのですが、リモートで効率的なデプスインタビュー実施するため、疑似的なUXカーブを再現し、カーブが大きく変化した時の出来事や理由などを掘り下げていきました。

UXカーブの一例

結果として、以下のような示唆を発見できました。

  • ・特定の利用条件があった
  • ・モチベーションを継続させるための仕組みが必要だとわかった
  • ・利用者の個別的な理由があった
  • ・利用を阻害する問題が見つかった

アンケート回答における「忙しくて時間がない」という点については、特定の利用条件やモチベーションが継続できない状況で、使わなくなってしまった理由を時間のなさという表現で正当化していることが多いと判断できました。

また、「使い慣れていない」という点も同様に、利用にあたって使い方がわからない、誰かに教えてもらって使うなどの声はほとんどあがっておらず、説明がなくても使うことができるという意見が多かったことから、利用しなくなったことを正当化するものだと判断できます。

最後に、環境や利用文脈という点では、利用者独自の条件があったにも関わらず、条件を踏まえた目的が適切に浸透していなかったこと、代替手段により対象サービスの提供価値が変化してしまったことなどがわかりました。

つまりサービスの利用継続率が低下してしまっている原因は、特定の条件のなかで利用を促進するような仕組みや、提供価値の変化といった本質的な課題があることがデプスインタビューを通して明確になったのです。

このように、「使いやすさ」や「わかりやすさ」といったUIの視点だけではなく、その背景にある本質的な課題を解決しなければ、ユーザーのUXの向上が見込めないことが分かっていただけたかと思います。

まとめ

以上、今回は本質的な課題や示唆を探っていくデプスインタビューについて紹介しました。

UXの改善や向上を検討する際は定量的な分析だけではなく、よりユーザーの深層に迫るデプスインタビューで有益な情報や示唆を引き出すことによって、解決すべき課題が見えてくることがあるかもしれません。

既存の改善方法で成果が出ない、ユーザーが価値を感じているポイントを知りたいといった場合は、ぜひデプスインタビューでユーザーの本当の声を聞いてみてはいかがでしょうか。

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